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闇のオタクには「Summer of 85」は眩しい!【映画の感想】

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 夏休みの初日、フランソワ・オゾン監督の「Summer of 85」を金曜日に見に行きました。
公開日の最初の回でしたが、客層は女性ばかりなのかなと思いきや、若い大学生くらいの男の子(一人客)もちらほらいて、少し意外でした。どちらかといえば、30代女性が多かったような。
 原題は、エイダン・チェンバーズの小説「俺の墓で踊れ」。タイトル、とてもカッコイイですが、作品自体はYA作品だとか。映画と小説、登場人物の名前も異なるのが意外でした。

 では、以下、感想です。

 

 

 

【映像の美しさ】


 ざらざらしたレトロな映像の美しさはピカイチ。登場人物たちの美貌も素敵ですが、個人的にはダヴィドのお家に心惹かれました。わざとびしょぬれになって入りたがる人がいるらしい「お風呂」、素敵でしたね……。アレックスが「棺みたい」と言っていたことが好きだった。ディスコ(でいいのかな)で踊るシーンのカラフルな画面も、めちゃくちゃお気に入り。二人の肌色シーンは絵画みたいですごい。個人的に映画館で大画面で映るアレックスのお尻にビビり散らした。綺麗なお尻だな。

映像の作りこみが、作品を大切にしたい雰囲気が伝わってきて心惹かれました。

 

【お話に関して】


 お話は、わたし的には「オチがちょっと違うかな~」と思っています。とはいっても、物語の後半(アレックスがダヴィドの死を受け入れるまでの道のり)は良かった。

まぁ、「彼は秘密の女ともだち」のころから、ストーリーの要所要所、ちょっと友達にはなれないなと違和感があったので、監督作品は肌に合わないのかもしれません。いやでも、「女友達」よりさわやかで良い。一人の少年が恋をして、彼を通して「死」について彼と過ごした時間を小説として描くことで解釈をしていく話。自分の人生を、創作を通じて受け入れていくという情報は知らずに見たので、小説を書く人にも響くのではないかな。

 

【男二人に介入する女の子の扱い】


 二人の男に介入する女の子の描写は、とても良かったです。アレックスが「ケイトのせいで」と逆恨みになることも、ケイトがステレオタイプないやな女になることもなく、「ダヴィドの生きた証を確かめ合える大事な存在」として友情を結べたことは、素晴らしい。

 

【他者に理想を抱くこと】


特に作品の肝かなと思える、ケイトがアレックスに告げる「見た目で惹かれて、中身も理想だと期待した」みたいなシーン※は、「観る側に突然ナイフを向けないでくれ!」と叫びたくなると共に、一番好きなシーンです。「そう……本当にそうだ……」と映画館で打ちひしがれてしまった。


※「あなたが愛していたのは彼じゃない。自分が創り出した幻想よ。顔と体を好きになって、心も理想通りだと期待した」のところ。

 

 多くの人に当てはまる恋愛の苦しみじゃないでしょうか。いや、恋愛だけではなく、すべての人間関係に通じるものがあるかもしれない。友情もそうだと思う。「こういう人だと思ったのに」というのは、相手の行動を自分の理想や期待に無理に当てはめ、自分の中でその人を育てていたことにほかならず、本人とは乖離した存在になってしまっていること、あると思います。他者に期待するのは、自分の都合を本人に押し付けること。

 

「友達でしょ、恋人でしょ、家族でしょ?なんで○○やってくれないの?どうしてわからないの、普通こうするでしょ」と思う感情は、自分以外は他者であるという意識が希薄になった時に生まれ、余裕があるときにしか「でも、あの人は私じゃない」と思えないこともあるのではないかな。


 二人が決裂するシーンにもそれは繋げられて、アレックスが心も理想通りだと期待したように、相手のダヴィドもアレックスが自分と同じ「多くの人と関係をもって楽しみたいタイプ」だろうと思い込んでいた。同じだと思っていたのにも関わらず、自分を独占し、一番になってほしいと期待を寄せるから、うっとおしくて嫌になり、興味も薄れていく。

 

【傷つけあうことは向き合っていること】


 若いなと思うのは、言わなきゃ穏便に済ませられるのに言ってしまうところ。関係を終わらせるとき、ずるい人は「僕の気持ちの問題で、君は悪くない」とか言ってみせることが多いけど、二人とも涙を流して、傷つけあって別れるのは、若々しくて惚れ惚れします。
大人になると、あまり人の欠点を指摘することもなく、連絡先もSNSも消して終わりにしてしまうことが多いような。相手の欠点や心情の変化を伝えるほど、もう大切に思っていないというか。アレックスもダヴィドも、やはり愛し合っていたからこそ、傷つけあえるのでは。

 

【個人的にちょっと気になったオチ】


で、私的に「ちょっとなぁ」と思ったのは、最後のシーン。泥酔して過去にダヴィドに助けられた男を海で発見するアレックスが「自分から誘う」シーン。
オタク的には、「失った男を一生抱えて苦しんでほしい」と望みがちですが、「そんなすぐに次の男に行くのか!????」と驚いた。
いや、でも、結局彼もダヴィドとのつながりを感じられる人間で、年上の男性で、この人と関係を仮にもつとしても相手が「君は俺を見てないだろう、君はあの人のことばかり考えている」と告げることになりませんか(勝手に続編を考える闇のオタク)

 

【闇のオタクはダヴィド推し】


個人的に、ダヴィドがかなり推せるので、「死して尚、一人の男の人生を滅茶苦茶にかき乱す魔性」扱いしたいだけかもしれません。いや、色気すごかったですね。伏し目が美しい。反面、初々しい恋愛に染まっているアレックスの笑顔も大好きなんですけど、冒頭の「これはお前の物語じゃねーぞ」らへんの目つきの鋭さは、将来期待しまくってしまう。新人とか嘘つけ~。演技力高い。

ここまで書いておいて、冒頭の闇を感じる始まりから、次の男に行ってしまうアレックスの妙なオチがちょっと違うのかな、と思いました。だって、最初のノリだと、ダヴィドに愛憎抱いているみたいだしな。でも、あれ捕まった直後だし、あれから「思い出を携えて、生きていく」みたいな最後に向かうまでの描写があるから、冒頭の引き込みが自分好みだったのかもしれませんね……。闇のオタクは、一人の男が生霊のように人生の随所に絡みついてくるのが大好きなので、そういうものを期待しがち。


【その他気になった人物描写等】

 

ダヴィドの家庭


 個人的に気になったのは、ダヴィドの家族。お母さんが服を脱がすシーンもあれだし、「大人になってもあそこが成長してない」みたいな発言は、なんだ…?見てんのか……?
ダヴィドの母からなんか妙な性的な視線がアレックスにも随時注がれていて、もしかしてダヴィドもお母さんからそういうセクハラ発言とか受けていたのかなぁとか邪推しないこともない。
お母さん、父親が亡くなって、息子を「若い彼氏」のような扱いしてたらきついな。そんなことないよな、でもちょっとあのお母さん怖かったよな、と思う。中村明日美子さんの作品に出てきそうなお母さんだった。顔が怖い。

 

文学の先生


ちょっと内容を忘れてしまったけれど、ダヴィドも文学の先生と関係を持とうとして、拒否られていた気がしますが、それも「父性」を求めていたのかなぁ。先生は本当に倫理観あって良い存在だった。
間違ったことは、違うと教えてくれそうな存在。カウンセラーの女性?が「アレックスの原稿を読ませてくれ」と迫った時も、拒否していて、こういう大人いいなぁ。

 

アレックスと出会う前のダヴィ


アレックス寄りの視点で描写されるし、アレックスと出会う前のダヴィドの荒れ模様もあまり知らないので、そこらへん小説で知れるのかなと興味あります。文芸にも興味を持ち、勉強をすることを望んでいたが、父親が亡くなり店を継ぐまでの流れが知りたい。バイクの爆走に見える自傷のような行為は、やはり「父の死」が大きく絡んでいるようになりません。そこ知りたい……。荒れていたころの「本当の友達」を持たない時期、気になるな。絶対魅力的な退廃さがあるだろな……。

 

【墓で踊る約束】


「墓を踊る約束」、あまり言うほど描写がなく、ちょっぴり消化不良でした。ダヴィドの家庭がユダヤ教(だったような)で、喪に服すのが長いからかな。一年間、パーティーとかお祝い事はNG。父親が死んでから家中そういう雰囲気にのまれて、ダヴィドはそれに耐えきれなかったから、自分が死んでも深刻にならないでみたいな……?(難しい)

アレックスがいないところで、ダヴィドもかなり病んでいたのかしらと妄想しないこともない。この辺ほかの人の考察読みたいなぁ。ダヴィドのお父さん、かなり気になるんですけど、原作を当たるしかないのか……?(二人のひと夏の恋から離れてきたし、原作にもないんじゃないか)

 

 

 そんなこんなで、感想でした。自分的には、主人公のアレックスの成長を見守るよりダヴィドに興味持ってしまったので、消化不良になってしまった。でも、魔性の男だったじゃん……?????? オタクはみんな好きでしょ。

 アレックスの成長として物語をとらえるなら、切なく甘い物語だと思います。男同士のくそでか感情を望む闇のオタクには眩しかった青春映画。ぜひ、夏に見るべきだなぁと思う。う~ん、じわじわと心に残る映画でした。